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sweet sweet 8


彼は私の顔を見ると、とてもわざとらしく、金色の目を大きく見開いて見せた。

「大佐、アンタ、なんでここに」
ハボックが顔を背ける。つい、吹き出してしまいそうになるほどに、彼の台詞は棒読みだ。
「やぁ、鋼の。飼い犬の分際で勝手に主人を変えた駄犬が、どんな研究をしているかと思ってね。どうせ、大した内容じゃないだろうが。」
私がこれまでの思いを全て皮肉に込めて言うと、鋼のは少しムッとした顔をする。
勿論、それは演技ではない。
「アンタのそーゆートコが、嫌だったからだろ」
少し睨んで、それでも呆れるように息をつく。
それが本心なのかは定かではない。心が少しざわつくようだった。
鋼のは横に立って、オロオロと話を聞いていたヘドウィル少将の部下に視線をやる。
「どーすんだよ」
吐き捨てるような言葉に、その男はビクリ、と体を震わせた。
「し、しかし…少将がいらっしゃらない今は…」
鋼のに顔を寄せ、ボソボソと話している。
「鋼の、時間の無駄だ。邪魔するぞ。」
私が建物の奥へ進もうとすると、鋼のは「へー、へー」と呟きながら後に続いた。
「ご案内しますよ、マスタング大佐、殿」
横に並んだ鋼のの目が、笑うように細まった。
「エルリック様!」
少将の部下は、鋼のの背中に声をかけ、慌てたように別の部屋へと駆けて行く。
おそらく、ヘドウィル少将へ連絡を取りに向かったのだろう。
「良いのか」
「良いんじゃねぇの?狸ジジィが戻ってきたところで、さ」
鋼のはニヤリと笑う。
「それにしても、面白いんだぜ、この施設。まさに悪行の詰まった建物って感じ」

何処かの部屋に向かっているのか、鋼のの足取りは迷いなく進んでいく。
廊下は実にシンプルで薄暗く、両側にちらほらと扉が並ぶ。
天井の蛍光灯が所々カチカチと音を立てているのを見ると、施設自体にも然程手入れはされていないようだった。ネズミの1匹でも出てきそうである。
「ここ」と短く言って、鋼のが立ち止まる。
それは特に変哲もないドアで、開けて中に入ってみるがただの書庫のようだった。
古い文献を置いているのだろう、部屋にはカーテンがされ、日差しは入ってこない。埃臭い部屋だ。
私達が部屋を眺めるのもお構い無しに、鋼のは先へ進んでいく。
「ここをさ、こう…」
本棚の本の影、少し隙間の空いているところに手を伸ばす。
その先には小さなハンドルが、本棚と本の隙間の壁についていた。
カチリ、とハンドルを下ろした音がして、すぐに目の前の本棚がゆっくりとドアのように開く。
「こっから、地下に行ける訳。結構凝ってるだろ?」
少し自慢げにニヤリと笑って見せる鋼のに、私はくすりと笑ってしまう。
「大佐」
ホークアイ中尉に短く呼ばれ、自分が此処へ来た意味を思い出した。
全く、施設見学に来た訳ではないのだ。
「ああ…さて。どんな悪行が詰まっているのか、楽しみだ」
私はふふん、と笑ってみせる。
扉の先は少し行くと階段になっており、地下に続いていた。
階段は足元にしか明かりがなく、とても暗い。
階段を降りた先には、中から光の漏れる扉が一つだけあった。
「大佐、こっからは気を付けろよ」
鋼のが前を向いたまま、言う。
その言葉の真剣さに発火布をきゅ、とはめて気を引き締めた。

さぁ、さっさと終わらせてしまおうじゃないか、と。


2016.06.11

お菓子を書きたい……。