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sweet sweet 1

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「これ、お土産」

そう言って鋼のは、小さな白い箱をデスクに置いた。
ケーキの箱だ。
「?…私に?」
「そう。アンタ、甘いもの好きだろ?」
「…」
予想外の言葉に私は言葉をのむ。
司令部では甘いものは口にしないし、コーヒーだってブラックで飲むようにしている。バレるはずはないのに。
私が本当は、極度の甘党だと言うことは。
「な、いや、私はそんな…」
「別に良いよ言い訳しなくても。誰かに言ったりもしねぇし。」
鋼のはしれっとそう言うと、ソファに腰掛けて文献を開く。
私だけが、この魅力的な小さな箱を開くかどうかでオロオロしていた。
「…しかし、なぜ君が。」
私が甘党であることを知っているのか。
最後まで言葉にしなくても、鋼のはわかったようで、ああ、と呟く。
「期間限定の高級チョコ。買いに行ってただろアンタ。」
「あれは…人にあげようと思ってだな。」
「包装はしてなかった。」
うぐ、と言葉につまる。よりにもよって、この子どもに見られるとは。
相変わらず文献に視線を落としたまま、鋼のは淡々と話続ける。
「あんな限定品のチョコを自分用に買うくらいだから、まあ甘いもんは好きなんだろうなって思ってさ。それ、開けてみろよ。結構有名な店のケーキなんだぜ?」
そう言われて目の前にある箱に視線を落とす。
箱に張られた可愛らしい小さなシールには、確かに見覚えがあった。
セントラルにある有名な菓子店だったはずだ。雑誌にも載っていた。
「…そうか。…それでは頂くかな。」
「うん。別に誰にも言わねぇから。」
鋼のはそう言ったきり、文献に意識を集中させたようだった。ブツブツと何か呟きながらページを捲っていく。
私は親切にフォークが添えてあるのを確認してから、白い箱を開けた。
甘い香りがする。中を見れば、ふんわりとしたチョコレートクリームと苺の乗ったチョコレートケーキだった。チョコレートの優しい茶色と苺の赤が見た目的にも美しい。
私はそれを取り出して、一口分フォークで取り口に含んだ。
甘過ぎないチョコレートクリームとふんわりしたスポンジケーキが絶妙だ。苺の酸味もさっぱりとしてケーキに合うし、 これは今度セントラルに行ったときは寄らなくてはと思ってしまう。
私が一人、美味しいケーキにうっとりしていると、くっくっという笑い声が聞こえる。
笑い声の方に視線を向けると、鋼のは見ていた文献を膝に置いて笑っていた。
人前だというのに完全に自分の世界に入ってしまっていた。
「くくっ、アンタ本当に甘いもん好きなんだな。」
こう、回りに花が咲いてるみたいだった、と鋼のは笑う。
自分が甘党なんて笑われるに決まっていると思ったから隠してきたのに。
私が顔をしかめて恥ずかしさに堪えていると、散々笑った鋼のはにかっと笑って私を見た。
「アンタにもそーゆー可愛いとこ、あんのな。」

それが無性に恥ずかしくて。
なんと言って良いのかもわからなくて。

仕方なく、目の前のチョコレートケーキを口に含んだ。

やっぱりふんわりと甘かった。


2013.11.01