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sweet sweet 2

sweet sweet 2


鋼のはあれからこっそりと甘いものを差し入れするようになった。
それは、ケーキであったり、クッキーであったり、ポップコーンなどの菓子だったりした。
なんだかまるで、私の好みを探っているように時折入る差し入れは実に様々で。
いつからか鋼のが帰ってくるのが楽しみになっていく自分がいた。

「今回はなんだと思う?」

彼はいつも人が少なくなった終業間際に来ては、楽しそうに聞いてくる。
終業近くなると人に見られる心配も無くなるし、私にも差し入れを食べる余裕があるだろうという配慮だそうだ。
この子はいつから私に優しくなったんだと、少し気味の悪ささえ感じながら、それでも悪い気がしていない自分になんだか不思議な気分になった。

「ケーキだろう?」
「だから、それがなんだって。」

彼は小さい箱を私の目の前に置いて聞く。
見ればそれはイーストシティ近くにある街の有名な菓子店のもので、買うのにも相当時間がかかるだろうと思われるものだった。

「あの店で人気なのはチーズケーキだったと思うが。」
そういうと鋼のはくっく、と笑う。
「アンタほんとにケーキに詳しいな。そう。チーズケーキ。食ってみろよ。」
開けてみると本当にシンプルなベイクドチーズケーキだった。
いつものように添えてあるフォークをとり、チーズケーキに差し入れる。
しっとりとしていて滑らかそうな断面はチーズケーキ好きにはたまらない魅力だろう。
口に含むと思った以上にふんわりしていて、それでいて溶けるようなチーズの食感を忘れていない。
「これは、うまいな。一度は食べてみたいと思っていたんだが、想像以上だ。」
「あの菓子店ってカフェが一緒になっててさ、そこでシフォンケーキも食ってみたんだけど美味しかったぜ。今度買ってくるな。」
「ああ、それは良いな。」
私は夢中でチーズケーキを食べながら、鋼のが食べたというシフォンケーキにも意識を飛ばす。
さぞ美味しいだろうな。

私がチーズケーキを大事に大事に食べ終えると、鋼のは持ち込んだ資料を読んでいた。
古びた資料は若い鋼のにはとても不釣り合いなものに見えるが、彼は難なくぱらぱらとページをめくっていく。
長い睫と黄金の髪に目を取られていると、鋼のの大きな蜂蜜色の瞳と目が合った。
なんだかそれが無性に恥ずかしくなってふいっと顔をそむけると、彼の笑い声が聞こえた。
「うまかった?」
私は小さく「ああ」と答える。なんだこれは。
そんな様子を知ってか知らずか、鋼のは立ち上がりぐぐっと伸びる。
「そっか。しゃあ、俺は宿に戻るかな。」
じゃあな、と言って出て行こうとする鋼のを私はなんだか焦ったように呼び止めた。
「ま、待ちたまえ。いつもこうして差し入れしてもらっているんだ。今日は食事でもどうかね。勿論おごるよ。」
「アンタがそんなん誘うなんて気味わりいな。」
鋼のはいつものように喉でくくっと笑って、それならシチューの上手い店な、と添えた。
私はにこりとして「ああ」と答えたが、表情とは裏腹に内心ドキドキしてしまって、自分自身なんなんだと頭を抱えたくなるような気分だった。

甘いもので甘い気持ち?
そんなのバカバカしいだろう。


2013.11.19