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白く、赤く、青く 前編


最近、12月になると町が赤や緑の飾り、様々なイルミネーションで彩られるようになった。
なんでも、クリスマスというお祭りがどこかの国にあるらしい。
その国で信仰されている宗教の神‐キリストとかいった‐の生誕祭だという。
アメストリスでそのような宗教的祭りが盛んになるのは、この国自体に特別信仰している宗教がないからだろうか。人種的な問題はあるが、宗教には疎いようである。

私は珍しく定時に仕事を終え、帰り道に色々な店を見て回っていた。
クリスマスの前日はイヴといい、まあ、恋人同士には特別な日になると言う。
クリスマスは家族と、イヴは恋人と、とは・・・なんとも企業によって合理的な設定ではあるが、バレンタインのように定着していくのではないかと思う。
それに、そのようなイベントに便乗してみるのも良いんじゃないかと思う。まあ、私は便乗しようにも恋人も家族もいないのだが。

しかし・・・。

ふと、あの子は帰ってくるだろうかと思う。なぜあの子が頭に浮かんだのかは自分では・・・いや、薄々気づくところではあるが今のところは目をそむけている。
そう考えて軽く首を振ってから、元の考え事に想いを逸らす。
あの子はこのようなイベントには無頓着に思われる。自分の誕生日をも覚えていないような少年だ。興味は持つかもしれないが、そこで終わりだろう。
そうなるといつもと同じように過ごすことになりそうだ、と私はぼんやり店を見て回りながら思った。

ふと、ある店の前で立ち止まる。
「クリスマスには家族で当店のクリスマスケーキを!」と書かれた広告に目が留まったのだった。
クリスマスにはケーキを食べるのだそうだ。上にサンタクロースと言う白髭の老人とクリスマスツリーという松の木を象った砂糖菓子が乗っている。
ビュッス・ド・ノエルというケーキもクリスマス特有のものらしい。
珍しいケーキを見ると食べたくなってしまうのは、甘党特有のもので私は静かに唾を飲み下す。
苺にココアクリーム、雪を模しているのであろう粉砂糖や生クリームが見た目にも美しい。
その菓子屋はフルーツ満載なタルトを押しにしていたが、ビュッシュ・ド・ノエルの中にも多くのフルーツが盛り込まれているようだ。

こんなのを一緒に食べられたらなあと、少し欲が湧いた。
しかし、あの子が帰って来るとはまず考えられないだろうと、苦笑と共に溜息をもらす。

会いたいなあ、と心の片隅で思う。
しかし、そんなことからは目を背け、ハボックでも飲みに誘ってやるかと。
そう思って商店街を通り過ぎた。

2013.12.10