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sweet sweet 3

sweet sweet 3


今日の私は不機嫌だ。それはそれはイライラしている。
書類にペンをギリギリと押し付けては書類に黒い染みを作っていく。
仕方が無いと諦めたのか中尉も口を出そうとはしない。それどころか、みんな私が静まるまで待つことにしたようだ。先ほどから誰も入って来ていない。
私はそれを良いことに、常に机の引き出しに隠し入れている高級チョコレートをナッツのようにぼりぼりと食い漁っていた。くそ。美味しいチョコレートの味もよくわからない。

私がどうしてここまで腹が立っているかと言うと、いつも通りの上官の嫌がらせや嫌味、嫉妬等々・・・上げ出したらキリがないのだが。
それくらいのことであったら、まあ我慢しただろう。
しかし、あの狸ジジイは鋼のを寄越せと言って来たのだ。こんなことがあるだろうか。私が引き上げ、ここまで導いてきた少年を、少し名が売れてきたからと自分の出世の道具にするつもりなのだろう。
腹を立てずにはいられんと、鋼のが以前持ってきたクッキーに手を付けた。くそ!うまい!
私だって最初こそは良いように利用してやろうと思っていたさ。それがどうだ。懐かせられるような代物ではないのだ、鋼のは。
それに自分の信念に真っ直ぐ突き進む姿が魅力な彼を、今更飼い殺しにしようなんて全くわかっていない。

鋼ののことを考えていると、結局自分は彼に強く魅かれているのだと思う。それは間違いないのだろう。
彼は、甘い。しかしその甘さは私からはとても魅力的な、なんとも羨ましいものに思うのだ。

ああ、クッキーも無くなってしまった。私は糖分不足で死ぬかもしれない。
にしても。あのクソ狸はどうにかしてやらないといけないな。いっそあの将校という座から引きずり降ろしてやりたいものだ。
しかし、本当に狸のような男だった。本当に軍人かと疑うような腹をしていたし、ニタニタと笑っている姿からなんとも気色の悪い印象を受けた。髪もハゲ一歩手前と言ったところだ。確か結婚もしていなかったのではないだろうか。
もしかして、そういう性癖でもあって鋼のを傍にと言ったのではないか。と、思うと更に気色が悪い。
私の焔で加熱消毒してやろうか。

私が再び書類にペンをぐりぐりと押し付け始めた頃、唐突にドアが開いた。
私はビクッとした。というのも、デスクの上にはチョコレートとクッキーの缶が食い散らかした状態で放置されていたのだ。

しかし、入って来たのが2ヶ月ぶりくらいになる金色の少年だったのだから、私の機嫌はぐぐっと良くなった。
「よう大佐。なんか荒れてんな。」
「鋼の・・・驚いただろう。ノックをして入れといつも言っているのに。」
鋼のは私のデスクに目を向けて、ああ、と納得したように苦笑した。
「なに?やけ食い?」
「少し機嫌が悪かったんだが、もう大丈夫だ。」
なんだかあんなに不機嫌だったのが嘘のようにウキウキ気分だ。まるでお土産を期待する子どものようだと、自分自身なんだか可笑しくなった。
「そ。あ、これ。なんだと思う?」
鋼のはいつも通り質問してくるが、なんだか今日は小さな箱だ。
「キャンディか何かかね。」
「ぶぶー。正解は、マシュマロです。」
鋼のは箱から小さなビンと取り出す。中には色とりどりのマシュマロが詰まっていた。
「ほう、珍しいな。」
高級店の洋菓子を持ってくることが多いからか、もっと違うものかと思ったが、カラフルなマシュマロはポップで可愛らしい。
「たまにはこういうのも良いかなって思ってさ。高いのでも良かったんだけど、今回は庶民的に?」
ほら、とビンを差し出されたので一つマシュマロを口に放る。
表面は少しサックリしていて、中はふわふわで舌に触れるとシュワリと溶けていく。なんとも懐かしい食感だった。
「たまにはいいな、こういうのも。」
「だろ?南部に面白いお菓子屋があってさ。店の中がすげえカラフルなんだよ。」
鋼のはその店の話と旅の話をし始める。
報告ではない。ただの世間話のようなものだ。
しかし、歳の離れた友人みたいな感覚が、なんとも心地が良いのだと最近気がづいた。
「ほんっとに凄かったんだよ!大佐も見たら驚くだろうなあ。」
鋼のは二カッと笑う。
彼は私をどう思っているのだろう。上司だろうか。錬金術師仲間だろうか。知人程度だろうか。
友人くらいに思ってくれないだろうかと、願ってみたりして。
少し辛くなった。

私はこの子のなにになりたいのだろう。


2013.12.10(2017.10.10加筆修正)
ちょっと長くなりました・・・。