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sweet sweet 4


sweet sweet 4


執務室の空気は重たく張りつめていた。鋼のは足を投げ出すようにソファーに座っている。
私は腹の底にどす黒いものを抱えながら、重い空気を一層重くするように口を開いた。
「どういうことだ。」
問いに対して鋼のはへらへらと笑いながら口を開く。
その態度が私の気分を更に悪くするとも知らずに。
「だからヘドウィル少将の私的な研究所で研究をするだけだって。」
私の顔を見ずにいう言葉はどこかはっきりとしない。
おおよそ奴から何か吹き込まれたのだろう。間違いなくそうだ。
他人を守ろうと、庇おうとする子どもはいつもそうして抱え込むのだ。

頼られない大人の惨めさなど知らずに。

「何か吹き込まれたんだろう。」
私が極力柔らかく、とはいってもたかが知れているが、言葉を投げかけると睨むように金色の瞳がこちらを見た。
いつも輝く瞳は、私を拒むように鋭い。
「研究設備の整った施設でちゃんと研究をしてみたくなっただけだって。査定も近いし。別に問題ないだろ。」
その瞳と言葉と、全てが私を拒んでいることが無性に腹立たしい。

「何を吹き込まれたかと聞いている。」

怒りを最大限に込めた言葉は、私が思う以上に低くて鋭い声で放たれた。
びくり、と鋼のが驚いたのがわかった。
「なんでそんなに怒るんだよ!良いだろ別に!」
私の言葉に反発するように、鋼のはソファーから弾かれたように立ち上がる。
「君は考えなしにそうしているのかもしれないが、それでは私が困る。お前は、私の狗だ。」
鋼のの表情が益々暗くなる。
それに伴って私の気分も更に重くなる。そして腹の底のどす黒いものも、尚更。


イライラとした気分をごまかすように、窓の外へ視線を向ける。
金色の子どもが、真っ直ぐに東方司令部を後にするのが見えた。
「良いんスか、大佐。」
ハボックが困ったように聞くが、それに対して答える術をもっていなかった。
私だってわからないのだから。

「ハボック、煙草を一本くれ。」
「大佐、吸いますっけ?」
「たまにだ。普段は吸わん。」
ハボックがおずおずと差し出す煙草を受け取り、発火布ではなくマッチで火を付けた。
硫黄の香りと白い煙が私を巻いて、消えていく。
私は溜息と煙を吐きだし、どうにかこの気持ちに整理をつけようとした。

苦い。
そう思う。

乾いた唇をなめると、煙草独特の味がした。苦くて、まずい。
「まずいな。」
ぼそりと呟くとハボックが「じゃあ吸わなきゃいいでしょ」と呆れたように言った。
肺に煙を取り込むと軽い眩暈がする。
ふわふわとした気持ち悪さを感じて、まさしく今の自分だと嘲笑した。
いや、その気持ち悪さは私と鋼のの関係か。


私はどうして、こんなにあの子どもが。

溜息は煙になり、そして消えた。


2014.05.25

普段吸わないのにいきなりハボックの煙草なんて吸ったらくらくらするなんてもんじゃない気が…。