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とある初夏の夢物語


※注意!

これはエドロイ子小説です。
女体化が嫌いな方は閲覧をお控えください。










その日はデスクワークも早くに終わり、珍しく暇な日を過ごしていた時だった。
とても青々とした空に、ゆっくりと雲が流れていく。そんな日の午後。
執務室に居るのも勿体無くて、本を一冊手に取り執務室の窓下にある木の下へ向かう。
芝生に腰を下ろすと緑の香りがして、とても気分が良かった。
なんだか良いことがありそうだなと、鼻歌でも出そうな気持で木々とその先の空を見上げる。
持ってきたのは書庫の匂いのする古い本。錬金術の本だが、そんな心地よい環境で読書に耽ってしまうのもなんだか勿体無い気がして、それは傍らに置いたままでいる。
そんな気持ちの良い、暖かな初夏の日。
私は木漏れ日に包まれて夢を見た。

私が包まれているのは木漏れ日ではなく男性で、そしてそれは良く知った子どもだった。
彼を異性として意識したのは、ほんの最近の事だ。
女性でありながら男性として生き、恋愛ごとも避けてきた。
勿論女性に想われれば自分が男性であることを演出するために利用したりもした。
それでも、私は女性で。関係を深められるわけもなく、恋愛はごっこ遊びのままだ。
この男性社会では同性が好きだと言う人も少なくなく、そんな男性に言い寄られもしたが、それこそ女性としての自分を感じてしまいそうで怖かった。
だからそう、私はまともに恋愛をしたことがない。

そんな私が見る夢は、まるで今日のように暖かでふわふわとした夢だ。
金色の子どもは私を見て微笑み。そして私を包んでくれる。
たったそれだけ。それだけの触れ合いなのに、私はどうしようもなく恥ずかしい。

一回り程も年下の少年に魅かれる自分が、とてつもない性癖を持っているのではないかと自己嫌悪したりもした。そして現実ではありえない彼の姿を、勝手に夢の中で描いていることにも。
自己嫌悪は苦しく、辛かった。

彼が私に触れる。髪をすき、頬を撫でる。
夢の中の私は彼が私を抱きしめるのに対して一度だって返したことが無い。
しかし、今日は違ったのだ。
私はその温かさを逃したくなくて。ただただ幸せで。彼の事を抱きしめた。
彼は少し驚いた表情をして、本当に柔らかく微笑んだ。
そして彼の顔が迫ってきて、私は恥ずかしさとむず痒さと、兎に角言いようもないむずむずとした感覚を耐えなくてはならなかった。
ふわりと落とされたキスに戸惑ってしまい、私は余計に彼を抱きしめた。

そうして目が覚めた時には、隣に彼がいたのだった。

私が持ってきた本を読んだのだろうか。膝の上に開いたままのそれを乗せて。
彼はすやすやと眠っていた。
私は急に恥ずかしくなって、彼を見るのも辛かった。
あれは、夢だろうか。彼が隣にいるからあんな夢を見てしまったのだろうか。
自己嫌悪に襲われ、どうしようもなく苦しくなる。
私がうろたえていると、揺らしてしまったのか、金色の睫がふるふると震え彼が目を覚ます。
へたりと笑った彼は「たいさ」とたどたどしく私の階級を呼んだ。
「は、鋼の。どうしたんだ。」
何を聞きたいのかわからない質問が口をついて出た。
この場を立ち去らなくては、と思った。それでなくては私が死んでしまうかもしれないと。

しかしそれは、彼によって阻まれた。
立ち上がろうとしたところ、腕を掴まれ引っ張られた。
視界が傾いていって、目の前には金色と青い空。
痛みも無かったので何が起きたか判断が遅れたが、これは、押し倒されているということ。

「…大佐。」
先ほどより言葉がしっかりした彼。その顔が目の前にある。
「好きだ。俺、アンタの事が好きだよ。」
理解不能な言葉に眉をしかめてしまったのだろう。彼は苦しそうに眉を寄せた。
「ごめん、変なこと言って。でも、それでも、俺はアンタが好きだ。」
もう一度言われた言葉はすんなりと私に届いて、私は全身が泡立つような不思議なざわつきを感じた。
言っても良いのだろうか。彼は男の、女の、どちらの私を好いているのだろうか。
「わ、わたしは…。」
泣きたいような気持ちになり、どうしていいかもわからない。
そんな私を見て彼はふわりと、夢で見た微笑を浮かべて。
「あーダメだ。ワリ、我慢できない。」

ちゅ、と短いキスをした。

「!?」
私が驚いていると、彼は私を抱きしめて、笑った。
「だってさー、反則だろ。アンタすげえ俺が好きだって顔してる。」
そう言ってまた、私の額にキスを落とす。
「なあ、言って?」
鋼のが私を強く抱きしめて言う。逆らう隙もあたえないくらい、強く、腕に包まれる。
「………好きだ。本当に。」
私が小さく言うと、鋼のは私の顔をまじまじと見て。
夢で見た以上の笑顔を浮かべた。

暖かな初夏の日。木漏れ日の下で。
私は漸く夢から目覚めた。


2014.05.25

なにこのカップル。爆発したら良いのに。…………失礼しました。